沼津から伊豆方面へ国道を南下していくと、湾のいちばん奥まったあたりに小さな漁港が見えてきます。多比港です。地図で見ると湾の奥の奥、いかにも浅くて水が動かなそうな場所に見えるのに、実際は堤防の足元からストンと落ちる急深地形で、アジからマダイまで顔を出す不思議な釣り場です。
ただ、この港を「釣れる港」としてだけ紹介するのはフェアではありません。多比港は港内の係留エリアがルアーを含めて釣り制限の対象で、突堤の先端も現在は立ち入り禁止になっています。駐車スペースもロープで一部が閉じられた時期があり、「昔の釣り場情報のまま行くと、そもそも入れない」タイプの港です。
そこでこの記事では、釣り方の前に「どこまで入れるのか」「どう停めるのか」を先に整理し、そのうえで多比港の主役であるクロダイ・アオリイカ・アジ・マダイの狙い方を、時期と仕掛けの数字で解説します。読み終えたときに、行くべきか・何を持っていくかが決まっている状態を目指します。
・多比港の地形と水深、なぜ湾奥なのに魚が濃いのか
・釣りができない場所(係留エリア・突堤先端・ヨットハーバー側)の線引き
・駐車とアクセスの現状、トイレがないことへの備え
・クロダイ・アオリイカ・アジ・マダイの時期と仕掛けの号数
多比港は「湾奥なのに急深」な港である

多比港は駿河湾の奥、江浦湾に位置する漁港です。二股に分かれた突堤があり、その外側がメインの釣り座になります。湾奥という言葉から想像する遠浅の砂泥地とはまったく違う底の作りをしていて、これがこの港の釣りの性格を決めています。
多比港の釣り座は二股突堤の外側です。港内の係留エリアはルアーを含めて釣りが制限され、突堤の先端は現在立ち入り禁止。「入れる範囲は思ったより狭い」という前提で釣りを組み立てると、現地で迷いません。
足元は水深3メートル前後、沖は5〜6メートル以上に落ちる
結論から言うと、多比港は手前が水深3メートル前後、沖に出ると5〜6メートル以上という、距離のわりに落差のある地形です。海底の傾斜は急深で、底質は石・岩が主体。手前にはゴロタ石が敷き詰められ、沈み根や障害物が点在しています。
この地形が効いてくるのは、投げる距離の判断です。遠浅の港なら「とにかく遠投」が正解になりがちですが、多比港は足元からすでに3メートル前後の水深があるため、遠投しなくても魚のいる層に仕掛けが届きます。初めて立つ人ほど力いっぱい投げて、手前の沈み根の上を通る一番いいコースを飛び越してしまいがちです。
逆に、根が多いということは仕掛けを失いやすいということでもあります。オモリを底に置きっぱなしにする釣り方だと、根掛かりで仕掛けもオモリも消えていきます。判断のコツは、最初の数投で「どこから根が始まるか」を確かめること。オモリを引きずってコツコツと硬い感触が続く範囲が石の帯で、そこを避けて仕掛けを止める場所を決めると、ロストが目に見えて減ります。
二股突堤の「外側」が本命になる理由
釣り座として狙うべきは、二股に分かれた突堤の外側です。理由は単純で、内側にあたる港内の係留エリアは釣りが制限されており、そもそも竿を出す場所ではないからです。消去法でもあり、同時に釣りとしても外側が理にかなっています。
外側は湾の本流に面していて、潮が動きます。多比の堤防は湾内にありながら沖へ延びているため潮通しが良く、結果として狙える魚の種類が多くなります。アジ、イワシ、クロダイ、マダイ、アオリイカ、サバ、スズキ、ソウダガツオ、メジナ、カワハギ、タコと、堤防で名前が挙がる魚がひと通り並ぶのは、この潮通しのおかげです。
よくある失敗は、風を避けて内向きに入ってしまうことです。北風の日に堤防の陰は確かに釣りやすいのですが、そこは釣りが制限されているエリアに近づく方向でもあります。風で釣り座を選ぶのではなく、まず「入っていい範囲」を決め、その中で風下側に立つ。順番を逆にしないことが、この港では特に大事になります。
意外と知られていないけれど、湾奥は「濁りに強い」
実は、湾の奥まった港は雨後に不利だと思われがちですが、多比港のように底が石・岩主体の場所では、砂泥底の港ほど濁りが長引きません。巻き上がるのが泥ではなく石まわりの水だからです。大雨の翌日に「どうせ濁って釣りにならない」と諦めて出発を取りやめる人がいますが、この港では潮が動いていれば竿を出せる日が意外とあります。
ただし、これは「濁りが薄い」という話であって、増水そのものが安全なわけではありません。強い雨のあとは流木やゴミが寄りますし、堤防の上も滑ります。狙い目として覚えつつ、判断の最後は当日の海の様子に委ねてください。
24時間入れる港だが、トイレがないという前提
多比港は時間で閉まる施設ではなく、定休日という概念もない漁港です。夜明け前から入れるのは釣り人にとってありがたい条件ですが、その代わりトイレがありません。これは軽く見ないほうがいい情報で、ファミリーで行く場合や長時間の釣行では、行動計画そのものを左右します。
最寄りのコンビニは車で7分ほど、距離にして1.8キロほど離れています。「着いてから探せばいい」が通用する距離ではないので、途中のコンビニや道の駅で用を済ませ、飲み物と食料も積んでから港に入るのが基本です。漁港は漁業者の仕事場なので、施設まわりでの用足しは論外だと考えてください。
この「事前に済ませる」という一手間を面倒に感じるかどうかで、多比港との相性が決まります。逆に言えば、準備さえしておけば、時間に縛られずに朝マヅメも夕マヅメも狙える自由度の高い釣り場です。
竿を出す前に、入れない場所を確かめる
多比港の記事で最初に書くべきなのは、魚ではなくルールです。この港は釣りができるエリアと、できないエリアがはっきり分かれていて、しかもその線引きは年々変わっています。ここを外すと、釣果以前に釣りが成立しません。
港内の係留エリアは、ルアーを含めて釣り制限の対象
まず押さえるべきは、港内の係留エリアです。ここはルアーを含めて釣りが制限されています。「エサ釣りはダメでもルアーなら」という理屈は通りません。船が係留されている場所は、仕掛けが船体やロープに触れるだけで実害が出ますし、ルアーのフックはとくに厄介です。
理由を知っておくと守りやすくなります。係留中の船は漁業者の商売道具で、船底やロープに引っかかったラインは、出港時にスクリューへ巻き込まれます。釣り人にとっては「ラインを高切れさせた」程度の出来事が、相手にとっては仕事が止まる事故になる。だからこの手の制限は、掲示が丁寧かどうかに関係なく厳格です。
判断のコツは、船とロープが視界に入る位置では竿を出さないこと。境界線が曖昧に見える場所でも、係留物との距離を自分の投点で測って、余裕を持って離れる。これだけで揉め事のほとんどは起きません。
突堤の先端は現在立ち入り禁止になっている
多比港の突堤先端は、現在立ち入り禁止です。潮通しが良く見た目にも一番よさそうな場所ですが、ここは選択肢から外して釣り座を組み立ててください。古い釣り場紹介や個人の釣行記には、先端に立って釣っている前提の記述がそのまま残っています。
釣り場の立ち入り制限は、堤防の老朽化、転落事故、駐車やゴミの問題など、いくつもの理由で追加されます。そして一度制限がかかった場所が元に戻ることは多くありません。年単位で情報が古くなる分野なので、「以前は入れた」は根拠になりません。
現地では、ロープ・バリケード・看板のいずれかが必ず判断材料になります。掲示があるのに人が入っている、という光景を見ることもありますが、他人が入っていることは許可の証拠ではありません。掲示が最新で、掲示が正しいという原則で動いてください。
数年前の釣り場紹介ページを保存して、そのまま現地へ向かうパターン。多比港は突堤先端が立ち入り禁止になり、駐車スペースにもロープが張られた時期があります。原因は「釣り場情報は更新されない」という前提を忘れること。対策は、出発前ではなく到着後に現地の掲示を一周して確認することです。ネットの地図に写る釣り座と、今日入れる釣り座は別物だと考えてください。
ヨットハーバー側と、漁業関係者エリアの線引き
港内の係留エリアと突堤先端のほかに、ヨットハーバー側も釣りの対象から外れます。加えて、漁業関係者以外は立ち入れない区画が港内にあります。この2つは「釣り禁止」と大書されていなくても、施設としての管理区域なので、入った時点で問題になります。
見分け方はシンプルで、作業用の建物・漁具・網・氷の設備が並んでいる側は仕事の場です。舗装が船の動線として使われている、フォークリフトの轍がある、といったサインも分かりやすい目印になります。釣り人の車が停まっているかどうかは判断材料にしないでください。
もう一点、堤防に上がるためのハシゴや斜路が仕事用であることもあります。通行できるかどうか迷ったら、その日いちばん近い掲示の内容を優先し、判断がつかなければ使わない。多比港は入れる範囲だけでも十分に魚が狙えるので、グレーな場所を攻める必要はありません。
静岡県では、獲ってはいけない生き物が決まっている
場所の次は、獲っていいものの話です。静岡県では、令和2年12月1日から施行された新たな漁業法において、アワビ、ナマコ等が特定水産動植物に指定され、採捕することが原則として禁止されました。違反した場合の罰則は3年以下の懲役又は3,000万円以下の罰金と定められており、「知らなかった」で済む水準ではありません。
さらに、漁業権の対象となる貝類・海藻(アワビ、サザエ、ウニ、ナマコ、ワカメ等)の採取は全国的に禁止されています。静岡県ではサクラエビが駿河湾の漁業権対象で、一般の採取はできません。13センチ以下のうなぎの稚魚であるシラスウナギも採捕が制限されています。堤防で足元の貝や海藻に手が伸びる場面は意外とありますが、そこは釣りの範囲外だと線を引いてください。
漁法にも制限があります。爆発物、毒物、スキューバ装備は水産資源の採捕に使用してはならないとされ、水中ゴーグルを使った素潜りでの採捕も対象です。詳細は静岡県公式サイトの遊漁のルールのページで確認できます。ルールの根拠を一次情報で押さえておくと、現場で迷いません。
多比港へのアクセスと、駐車で失敗しないための順番

多比港は電車だけで完結しにくい釣り場です。車で行く人が大半になりますが、その車の置き方が近年いちばん気を遣う部分になっています。ここではアクセスの実際と、到着してから釣り座に着くまでの動き方を整理します。
車なら国道136号線経由、東京から約2時間20分
車でのアクセスは国道136号線経由が基本で、所要時間の目安は東京から約2時間20分、名古屋から約3時間20分です。夜明けに合わせて釣りをするなら、東京発は深夜帯の出発になる計算で、これは体力配分に直結します。
この距離感が意味するのは、「軽く様子を見に行く」釣り場ではないということです。片道2時間を超える釣行では、現地で釣りができない事態が起きたときの損失が大きくなります。だからこそ、前章で書いた立ち入り制限の確認が効いてきます。
また、伊豆方面の国道は週末に混みます。同じ2時間20分でも、朝マヅメ狙いで空いている時間に走るのと、日中に走るのとでは別物です。狙う時間帯から逆算して出発時刻を決めると、現地での焦りが減ります。
| 住所 | 〒410-0101 静岡県沼津市多比 |
| 営業時間 | 24時間 |
| 定休日 | なし |
| アクセス | 東京から約2時間20分、名古屋から約3時間20分。国道136号線経由でアクセス可能。公共交通機関の場合は沼津駅から東江の浦行きバスで「東江の浦」下車 |
| 駐車場 | あり(無料。ただし2022年時点で堤防横の駐車スペースはロープが張られて一部閉鎖中) |
駐車スペースは無料だが、閉鎖された区画がある
多比港には駐車できるスペースがあり、料金はかかりません。ただし2022年時点で、堤防横の駐車スペースにロープが張られて一部が閉鎖された状況が確認されています。「無料の駐車場がある」という情報だけを持って行くと、現地で停める場所を探し回ることになります。
釣り場の駐車問題は、たいてい釣り人側の使い方が原因で悪化します。漁業者の動線をふさぐ、長時間の占有、ゴミの放置。こうしたことが積み重なると、まず駐車スペースが閉じられ、次に釣り自体が禁止されます。順番はほぼ決まっています。
判断のコツは、停めていいか迷う場所には停めないこと、そして路上駐車という選択肢を最初から持たないことです。停められなければ引き返す。それが結果的に、次に来たときも釣りができる状態を守ります。
公共交通機関なら、沼津駅からバスで向かう
公共交通機関を使う場合は、沼津駅から東江の浦行きバスに乗り、「東江の浦」で下車するルートになります。電車とバスで行けること自体は選択肢として大きいのですが、荷物の量が現実的な制約になります。
堤防釣りの荷物は、クーラーボックス、竿ケース、バッカン、コマセと、両手がふさがる構成になりがちです。バス移動を前提にするなら、コマセを使う釣りは避けてルアーやエギ主体に絞り、クーラーは小型にする。装備の側を交通手段に合わせる発想が必要です。
もうひとつ、公共交通機関では帰りの時間に釣りが縛られます。夕マヅメまで粘りたい釣り場で、最終の便を気にしながら片付けるのは慌ただしいものです。バス利用なら朝から昼までを本番と割り切り、時間で区切る釣りにすると無理がありません。
トイレとコンビニは、港に入る前に済ませる
前章でも触れたとおり、多比港にトイレはありません。最寄りのコンビニまでは車で7分ほど、約1.8キロの距離です。数字だけ見ると近そうですが、釣りの最中に往復すると、荷物を置いたまま釣り座を空けることになります。
とくに家族連れや、初めて釣りをする人を連れていく場合、ここは計画の中心に置くべき項目です。子どもは「今すぐ」になりますし、そのタイミングは選べません。港に入る直前のコンビニで全員が済ませておく、飲み物と食料もそこで買い切る。この2つを守るだけで、釣行の質が変わります。
判断の目安として、滞在が半日を超えそうなら一度は車に戻る前提で予定を組んでおくと安心です。トイレがない釣り場は珍しくありませんが、「知らずに行った」場合だけ問題になります。知っていれば、ただの条件です。
ゴロタ石と切り立った護岸──ケガをしないための備え
多比港の安全面は、波よりも足元の話が中心になります。護岸には切り立った部分があり、ゴロタ岩が多く、磯伝いの区間は足場が良くありません。ここを甘く見ると、魚を掛ける前にケガをします。
ゴロタ石はスニーカーで歩く場所ではない
結論として、多比港の足元にはゴロタ石が敷き詰められた区間があり、履物の選択がそのまま安全性になります。ゴロタ石は丸みのある石が不規則に積み重なった地形で、体重をかけた石が動く、濡れた表面が滑る、石と石の隙間に足首が落ちる、という3種類の危険が同時にあります。
スニーカーが向かないのは、ソールが柔らかくて石の角を受け止められないことと、足首を守れないことの両方が理由です。滑りにくさだけならスニーカーでも一定の性能はありますが、捻挫と踏み抜きに対しては無力です。フェルトスパイクやラジアルソールのシューズ、最低でも足首まで覆う靴を選んでください。
歩き方にもコツがあります。ゴロタ帯では歩幅を小さくし、次に乗る石を目で決めてから体重を移す。荷物を持って両手がふさがると転倒時に受け身が取れないので、大きな荷物は数回に分けて運ぶ。急がないことが、この地形では最大の安全対策になります。
クーラーボックスと竿を一度に抱えてゴロタ石を渡ろうとして、動いた石でバランスを崩す。両手がふさがっているので手をつけず、膝や肘から落ちます。原因は「荷物を運ぶ回数を減らそう」という判断そのもの。対策は、ゴロタ帯では必ず片手を空けて2往復すること。時間は数分伸びるだけで、リスクは大きく下がります。
切り立った護岸では、ライフジャケットが最後の保険になる
多比港の護岸には切り立った部分があります。落ちたときに自力で這い上がれない構造の場所があるということで、堤防釣りだから大丈夫という前提は成り立ちません。ライフジャケットは、船に乗るときだけの装備ではないと考えてください。
堤防での着用が効くのは、落水直後の数十秒です。冷たい水に落ちた直後は体が硬直して泳げませんし、服が水を含むと浮くだけでも体力を使います。浮力体が最初から働いていれば、その数十秒を呼吸に使えます。とくに単独釣行では、この差が決定的です。
選び方の目安は、国土交通省の型式承認を受けた「桜マーク」付きを基準にすること。堤防なら肩掛け式の膨張タイプが動きやすく、ゴロタ石を歩く場面でも邪魔になりません。子どもには膨張式ではなく固型式を選ぶ、というのも押さえておきたい基本です。

磯伝いに歩かない、という判断
多比港の周辺は磯が続いていますが、磯伝いの移動は足場が良くないため避けたほうがよい区間とされています。「あの岩の先まで行けば人がいない」という発想は、この港では持たないほうが安全です。
磯歩きの危険は、行きより帰りに集中します。潮位が上がって渡ってきたルートが消える、日が傾いて足元が見えなくなる、荷物と魚で重くなっている。行きに問題なく通れたことは、帰りに通れる保証にはなりません。
判断のコツは、出発前に「今日はここまで」という物理的な線を決めておくことです。堤防の入れる範囲だけでクロダイもアオリイカも狙えるのが多比港の良いところなので、無理をして距離を稼ぐ必要はありません。風が強い日、うねりが入っている日は、そもそも磯側に近づかない。これが最も確実な対策です。
クロダイを4月から11月まで狙い続ける3つの釣り方
多比港の看板と言える魚がクロダイです。4月から11月まで長期間にわたって狙える好ポイントで、とくに4月から6月、9月から11月が狙い目とされています。石と根が多い底質は、そのままクロダイの生活圏です。
ウキフカセ:円錐ウキB〜3B、チヌ針1〜3号が基準
まず基本になるのがウキフカセ釣りです。仕掛けの中心は円錐ウキで、浮力はB〜3Bの範囲を使い分けます。針はチヌ針1〜3号がメインで、食いが渋いときは1号以下のグレ針に変えると有効です。コマセはオキアミに配合エサを混ぜ、バッカンと柄杓を用意します。
この浮力帯が基準になるのは、多比港の水深と関係します。手前が3メートル前後、沖が5〜6メートル以上という水深に対して、ガン玉で仕掛けを沈めながら流していくには、Bから3Bの範囲でちょうど調整が効きます。無風・緩い潮ならB寄り、風や潮が効いてきたら3B寄り、と考えると迷いません。
初心者がつまずくのは、ウキの浮力を上げすぎて仕掛けが浮いたまま流れてしまうケースです。アタリが出ないので浮力を上げる、さらに浮く、という悪循環に入ります。対策は針を軽くする方向で調整すること。渋いときにグレ針1号以下へ落とすのは、食い込みを良くすると同時に、仕掛け全体を自然に沈める狙いもあります。

落とし込み・ヘチ釣り:モエビで足元を探る
堤防の壁際を釣る落とし込み・ヘチ釣りも、多比港と相性の良い釣り方です。ヘチに付着したカラスガイを捕食しに堤防へ寄ってきたクロダイを狙う釣りで、エサにモエビを使うと、クロダイ以外にもメバルやフッコが掛かって楽しめます。
この釣りが成立するのは、堤防の壁そのものが餌場になっているからです。貝が付いた壁の下には常に落ちてくる餌があり、クロダイはそれを拾いに来ます。だから遠投は不要で、足元を静かに落としていくだけで釣りになる。荷物が少なく済むのも、バス利用の人には現実的な利点です。
失敗しやすいのは、堤防の上を大股で歩きながら探ってしまうことです。足音と影は水中に伝わります。魚が壁に付いている釣りなので、こちらの気配で先に散らしてしまえば、どんな仕掛けでも釣れません。ゆっくり移動し、真上から覗き込まない。ゴロタ石で足場が悪い区間では、無理に壁際へ寄らないことも安全面の判断になります。
ダンゴ釣り(紀州釣り):底の魚に確実に届ける
3つめの選択肢がダンゴ釣り、いわゆる紀州釣りです。刺しエサをダンゴで包んで底まで届け、ダンゴが割れた瞬間にエサが出る、という仕組みの釣りになります。エサ取りをかわしながら本命の層へ届けられるのが最大の利点です。
多比港のように石と沈み根が点在する底では、この「確実に底へ届ける」性質が効きます。軽い仕掛けを流すフカセだと、風と潮でコースがぶれて、狙った根まわりに入らないことがあります。ダンゴなら投点の再現性が高く、同じ場所に打ち続けることでポイントを作れます。
注意点は、ダンゴの硬さです。硬すぎると底で割れず、柔らかすぎると着水の衝撃で割れてしまいます。どちらも「エサが底に無い」という同じ結果になるので、原因が分からず苦戦しがちです。まずは数投して、割れるまでの時間を体で覚えるところから始めてください。
3つの釣り方は、風と荷物で選び分ける
どれを選ぶかは、腕前ではなく状況で決めるのが合理的です。風が強ければウキのコントロールが難しくなり、荷物を減らしたければコマセを使わない釣りが有利になります。以下は多比港の条件に当てはめた整理です。
| 項目 | ウキフカセ | 落とし込み・ヘチ | ダンゴ(紀州釣り) |
|---|---|---|---|
| 仕掛けの軸 | 円錐ウキB〜3B+チヌ針1〜3号 | 壁際に落とすだけの短い仕掛け | 刺しエサをダンゴで包んで底へ |
| 主なエサ | オキアミ+配合エサのコマセ | モエビ | 刺しエサ+ダンゴの材料 |
| 狙う場所 | 突堤外側の潮が動く筋 | 堤防の壁際・足元 | 沈み根まわりの底 |
| 荷物の量 | 多い(バッカン・柄杓が必要) | 少ない(バス利用でも成立) | 多い(ダンゴの材料がかさばる) |
整理すると、車で行ってじっくり構えるならフカセかダンゴ、身軽に動きたいならヘチ、という選び分けになります。多比港は釣り座までの移動でゴロタ石を歩く場面があるので、荷物の量は釣果と同じくらい重要な判断材料です。
アオリイカとアジ、最初の1匹が近い2魚種
クロダイが本命として語られる港ですが、初めて多比港に立つ人に現実的なのはアオリイカとアジです。どちらも時期がはっきりしていて、時期さえ合えば道具立てもシンプルで済みます。
秋のエギングは9月から、10月〜11月にサイズが上がる
アオリイカは春と秋に狙え、9月から11月が旬とされています。秋のエギングの開幕は9月頃からで、初秋は新子がエギに果敢にアタックしてくるため数釣りが楽しめる入門に最適な時期、10月から11月になるとイカが成長してサイズアップし人気が高くなる、という流れです。
この2つの時期は、狙い方の目的が違います。9月は「アタリを何度も経験して、エギの操作を体に入れる」時期。10月から11月は「一度のチャンスを取る」時期です。同じ秋でも、数を釣りたい人と型を狙いたい人で行くべき月が変わります。
失敗しやすいのは、初秋に小さすぎる個体まで狙ってしまうことです。数が釣れるのは楽しいのですが、極端に小さいイカは持ち帰っても身が薄く、資源としても惜しい。掛かってしまった小型はできるだけ丁寧に戻す、という感覚を最初の年から持っておくと、来年以降の自分の釣りが良くなります。
秋は昼でも狙える、という入門者向けの利点
エギングは夜の釣りというイメージがありますが、秋は昼間でも比較的アオリイカを狙いやすい時期です。新子は日中に隠れているポイントが港内の障害物などとなり狙いがつけやすく、警戒心が薄いため障害物から出てきてエギを追いやすい、という理由があります。
これは初心者にとって大きな意味があります。日中ならエギの動きが見え、イカが追ってくる様子も確認できる。「今の動かし方に反応した」という情報が目で取れるので、上達の速度がまったく違います。夜は情報が手の感触だけになるので、最初の一歩には向きません。
ただし多比港では、狙いたい障害物が港内の係留エリア側にあるケースに注意が必要です。イカが着いていそうに見えても、そこが釣りの制限区域なら竿は出せません。入れる範囲の中にある根や潮の変化を探す。制限を前提に組み立てるのが、この港でのエギングです。

新子(しんこ)=その年に生まれたアオリイカの若い個体のこと。秋のエギングで数釣りの対象になるのはこの新子で、成長にともなって秋の後半にはサイズが上がっていく。「秋は釣りやすい」と言われる理由は、この新子が警戒心の薄い状態で港のまわりに多くいるため。
アジは5月から10月、サビキとアジングの2択
アジは5月から10月が釣れる時期で、釣り方はサビキ釣り、アジング、ルアー釣りが挙がります。家族連れならサビキ、ひとりで軽装なら小型ルアーのアジング、という選び分けが素直です。
多比港でアジが成立しやすいのは、足元から水深3メートル前後があるためです。遠浅の港では足元にアジが寄らず、サビキでは届かないことがありますが、ここは堤防際でも十分な水深があります。子どもが投げなくても釣りになるという意味で、ファミリー向きの条件が揃っています。
注意点は、サビキはコマセを使うため、堤防が汚れやすいことです。撒いたコマセが乾くと臭いも滑りも残ります。使い終わったら海水を汲んで流す。これは礼儀の話であると同時に、次に来る人が滑って転ばないための安全対策でもあります。ゴミ、缶、廃油を海に捨てないというのは県のルールとしても明記されている項目です。
釣ったアジは、その場での処理で味が決まる
アジやイカを持ち帰るなら、クーラーの準備が釣果より先です。氷と海水を入れた状態にしておき、釣れたらすぐ冷やす。これだけで、家に着いたときの状態が変わります。
理由は単純で、魚の劣化は温度と時間で進むからです。夏場の堤防でバケツに入れたまま数時間置くのは、常温で放置しているのと同じことになります。多比港はトイレも売店もない釣り場なので、氷は現地調達できない前提で、途中のコンビニで買ってから入るのが確実です。
サイズのあるアジが釣れたら、その場でエラと内臓を落として冷やしておくと、家での作業がぐっと楽になります。下処理の手順そのものは別記事にまとめてあるので、初めて自分でさばく人はそちらを参照してください。
マダイまで狙える理由と、1年の釣りものカレンダー
湾奥の漁港でマダイの名前が出ることに驚く人もいますが、多比港は3月から5月、9月から11月がマダイの狙い目の季節とされています。ここでは大物狙いの現実的な組み立てと、年間の見取り図を整理します。
堤防からのマダイは、外海側から沖の深場へ
マダイ狙いの常連は、外海側から沖の深場へ投じるスタイルが定番です。二股突堤の外側から、傾斜が落ちていく先へ仕掛けを届けるという組み立てになります。狙う季節は3月から5月と、9月から11月の2つの期間です。
この釣りが成立する背景には、多比漁港が湾内にありながら沖へ延びた堤防を持ち、潮通しが良いという地形条件があります。潮が動く場所には餌となる生き物が流れ、それを追う魚が回ってくる。堤防から大型が狙えるのは、この立地の副産物です。
注意点は、根の多い底質と大型を掛ける釣りの相性です。乗ったあとに根へ突っ込まれると、ラインは石で削られます。強い仕掛けを組むことも大事ですが、それ以上に「掛けた直後に沖へ向けて浮かせる」意識が要ります。足場が切り立った護岸なので、取り込みの手順も先に考えておいてください。
船のコマセ真鯛とは、まったく別の釣りだと考える
マダイという同じ魚を狙っていても、船の釣りは組み立てが違います。沖で釣る場合はアンカーを降ろしての釣りになり、潮の流れがあるためコマセカゴを使い、6メートル以上のロングハリスでコマセに馴染ませて釣ることになります。
なぜハリスがそこまで長いのかというと、コマセの帯の中に、仕掛けの存在を感じさせずにエサを漂わせる必要があるからです。マダイは警戒心が強く、短いハリスでは仕掛けの不自然さが伝わってしまう。長さは技術のためではなく、魚に見破られないための距離です。
この理屈は堤防からの釣りにも応用できます。多比港のように水がきれいで潮が動く場所では、仕掛けを短くまとめるほどアタリが遠くなる場面があります。船の常識をそのまま持ち込む必要はありませんが、「マダイは仕掛けを見る魚だ」という前提は共通です。
年間の狙いものカレンダー
ここまでの魚種を時期で並べ直すと、多比港の1年が見えてきます。年による変動はありますが、例年の目安として頭に入れておくと計画が立てやすくなります。
| 魚種 | 主な釣期 | とくに狙える時期 | 主な釣り方 |
|---|---|---|---|
| クロダイ | 4月〜11月 | 4月〜6月、9月〜11月 | ウキフカセ/ヘチ/ダンゴ |
| アオリイカ | 春(新子)、9月〜11月 | 10月〜11月 | エギング |
| アジ | 5月〜10月 | 夏から秋にかけて | サビキ/アジング |
| マダイ | 3月〜5月、9月〜11月 | 春と秋の潮が動く日 | 投げ釣り/コマセ釣り |
この表から読み取れるのは、秋がすべて重なるということです。9月から11月はクロダイ・アオリイカ・マダイの狙い目が同時に来る期間で、ひとつの釣り座から複数の可能性がある時期になります。逆に真冬は表に載る魚が減るので、初めて行くなら秋を選ぶのが素直な判断です。
誰と行くかで、狙う魚を変える
同じ港でも、同行者によって正解は変わります。ここまでの内容を、読者のタイプ別に整理しておきます。
子ども連れ・初めての海釣りなら、5月から10月のアジをサビキで狙うのが最短です。足元から水深があるので投げる必要がなく、トイレの問題さえ事前に解決しておけば成立します。ライフジャケットは大人より先に子どもに着せてください。
ルアーで結果を出したい人は、9月の秋エギングが入り口です。昼間に目で見ながら練習でき、10月から11月にサイズを狙う流れが作れます。じっくり型の釣りをしたい人は、4月から6月、9月から11月のクロダイをフカセかダンゴで。荷物は増えますが、多比港の地形を一番使い切れる釣り方です。
まとめ:多比港は「入れる範囲」を確かめてから釣り座を決める
多比港は、駿河湾の奥にありながら足元から水深3メートル前後、沖は5〜6メートル以上という急深地形を持つ港です。二股突堤の外側は潮通しが良く、アジやイワシから、クロダイ、マダイ、アオリイカ、メジナ、カワハギまで幅広い魚が狙えます。一方で港内の係留エリアはルアーを含めて釣りが制限され、突堤の先端は現在立ち入り禁止、ヨットハーバー側や漁業関係者エリアも対象外です。この線引きを知らずに行くと、遠路2時間以上かけて竿を出せずに帰ることになります。
最初の一歩としておすすめしたいのは、9月から11月の秋に、身軽な装備でアオリイカかアジを狙う一日です。この時期はクロダイもマダイも重なるので、ひとつの釣り座で複数の可能性が持てます。到着したらまず車で港内を一周し、駐車できる区画と掲示を確認してから荷物を降ろす。この順番を守るだけで、多比港は扱いやすい釣り場に変わります。足元のゴロタ石に備えた靴と、桜マーク付きのライフジャケットも忘れずに。
なお、釣り場の立ち入り制限・駐車状況・遊漁のルールは変更されることがあります。出発前に静岡県の公式ページを、現地では最新の掲示を確認してください。

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