東京湾で船に乗ってみたい。そう思って検索すると、乗合・仕立て・LT・ショート船といった聞き慣れない言葉が並び、料金も6,800円から10万円超までバラバラで、結局どれを選べばいいのか分からなくなります。ライフジャケットは自分で買うのか、竿は借りられるのか、酔ったらどうするのか。分からないことが多すぎて、予約ボタンを押せないまま季節が過ぎてしまう人は少なくありません。
結論から言えば、東京湾の釣り船選びは「乗合か仕立てか」「全日か半日か」の2つを決めた時点で9割が終わります。この2つが決まれば料金の水準も、出船時刻も、必要な道具も自動的に絞り込まれるからです。逆にここを曖昧にしたまま魚種から探し始めると、選択肢が多すぎて迷い続けることになります。
この記事では、実際に船宿が公開している料金表の数字をそのまま並べて相場の輪郭をつかみ、そのうえで当日の流れ、2022年2月から義務化されたライフジャケットの基準、持ち物、月別の釣り物、船酔い対策、そして東京湾特有のコマセ規制と釣り禁止ゾーンまでを順番に整理します。特定の船宿をすすめる記事ではなく、自分で選べるようになるための基準を示す記事です。
・乗合と仕立ての違いと、実際に公開されている料金の水準
・予約から帰港までの当日の流れと、釣り座の選び方
・ライフジャケットの着用義務と桜マークという判断基準
・月別に狙える魚と、コマセ3kg制限など東京湾のローカルルール
東京湾の釣り船は「乗合」と「仕立て」で費用も自由度も別物になる

釣り船の予約ページを開くと必ず出てくるのが「乗合船」と「仕立船(チャーター)」という区分です。同じ船に乗るのに、料金の桁がひとつ違うことも珍しくありません。違いは船を「席単位で買う」か「1隻まるごと借りる」かにあります。
乗合船(のりあいぶね)=見知らぬ客どうしが1隻に相乗りし、1人分の乗船料を払って乗る船。狙う魚と出船時刻は船宿があらかじめ決めている。
仕立船(したてぶね)/チャーター=グループで1隻を貸し切る形。料金は隻単位で、狙う魚や時間をある程度相談できる。
乗合船は「1席いくら」で買う釣り|公開料金で見る東京湾の水準
乗合船の相場を知るには、船宿が公開している料金表を並べるのが一番早い方法です。東京湾の遊漁船3店が公式サイトで公開している乗合料金を集計すると、1日船(全日船)で9,000円〜12,000円、半日・ショート船で6,800円〜10,000円という帯に収まります。
| 船の種類 | 公開されている料金の例 | 料金に含まれるもの |
|---|---|---|
| 1日船(青物ジギング) | 男性 12,000円/女性・高校生 10,000円/中学生以下 8,000円 | 乗船料・氷代 |
| 1日船(タチウオ・マゴチ) | 男性 11,500円/女性・高校生 9,000円/中学生以下 7,000円 | 乗船料・氷代 |
| 1日船(シロギス・マダコ) | 男性 11,000円/女性・高校生 8,500円/中学生以下 6,000円 | 乗船料・氷代 |
| 全日船(カワハギ/サワラ) | 11,000円 | 餌・氷1つ付 |
| 全日船(シロギス・平日のみ) | 9,000円 | 餌・氷1つ付 |
| 半日船(LTアジ・午前タチウオ) | 6,800円 | 餌・氷1つ付 |
| ショート船(マアジ午前) | 男性 10,000円/女性・高校生 8,500円/中学生以下 6,000円 | 乗船料・氷代 |
| 夜船(夜カサゴ) | 男性 9,000円/女性・高校生 7,500円 | 乗船料・氷代 |
表を見て気づくのは、女性・高校生・中学生以下の料金設定が明確に分かれている船宿があることです。家族で乗るなら、この区分があるかどうかで総額が数千円変わります。逆に、区分を設けず全員同額という船宿もあるので、人数構成が決まっているなら料金表の区分欄まで見てから予約先を決めると無駄がありません。
初心者がやりがちなのは、表示料金だけを見て「これで全部込み」と考えてしまうことです。上の例では乗船料と氷代は含まれますが、貸し竿や仕掛けは別途料金と明記されています。餌が別料金の船もあれば、餌・氷付きの船もある。総額で比較するなら、レンタル代と餌代を足したうえで並べてください。
なお、この表は特定の船宿をすすめるためのものではなく、東京湾の乗合料金がどのあたりに分布しているかを示す実例です。同じ「タチウオ船」でも港や船宿で数千円違うのは普通のことなので、水準の目安として使ってください。

仕立船は1隻いくら|人数で割ると印象が変わる
仕立船は隻単位の料金です。東京湾では湾奥エリアの5時間チャーターで65,000〜130,000円、6人ベースのチャーターで78,000〜104,000円(追加1人13,000円)といった料金が公開されています。金額だけ見ると高額ですが、6人で割れば1人あたりは乗合の1日船と大きく変わらない水準に落ち着くケースもあります。
仕立てが向くのは、釣り仲間が5〜6人まとまっている場合、家族だけで気兼ねなく釣りたい場合、そして狙う魚や釣り方を相談したい場合です。乗合では船宿が決めた対象魚に従うことになりますが、仕立てなら「今日はタイラバで」「途中からジギングに変えたい」といった相談ができます。
ただし、人数が集まらないまま仕立てを取ると1人あたりの負担が跳ね上がります。6人ベースの料金設定で3人しか集まらなければ、単純計算で1人2万円を超えることになる。仕立ての見積もりは「何人ベースの金額か」「1人追加でいくら増えるか」を必ず確認してから人数を確定させてください。人数が読めないうちは乗合のほうが安全です。
全日か半日か|初めての1回は短いほうが失敗しにくい
もうひとつの分岐が乗船時間です。全日船は朝出て14時〜16時ごろの帰港、半日船・ショート船は午前だけ、あるいは午後だけの設定になります。料金差は同じ船宿でも数千円ぶんあります。
初めての1回に限れば、半日船を選ぶほうが失敗しにくいと考えています。理由は釣果ではなく体力と船酔いです。慣れない揺れの中で仕掛けを扱い続けると、想像以上に集中力を消耗します。半日で「思ったより平気だった」という手応えを得てから全日に進むほうが、次につながりやすい。
意外と知られていないのですが、半日船だから釣果が半分になるとは限りません。東京湾の半日船は魚が集まる時間帯に合わせて設定されていることが多く、全日船の後半は移動と場所替えに時間を使うこともあります。「短い=物足りない」と決めつけず、まずは半日で海の上の時間感覚をつかんでみてください。
東京湾の乗合と仕立ての違いを知ったあとは、相模湾や房総も含めた関東の沖釣りの全体像も確認しておくと行き先を選べます。

予約から帰港まで、当日は決まった順番で進んでいく
初めての人が一番不安なのは、実は釣り方ではなく「港に着いてから何をすればいいのか分からない」ことです。乗合船の当日の流れは船宿が違ってもほぼ共通で、東京湾遊漁船業協同組合の入門ページでも同じ順序で案内されています。
予約は前日まで|出船するかどうかが決まるのは当日朝
予約の締切は船宿によって決まっており、前日20:00までと明示している船宿もあります。予約受付そのものを8:00〜20:00の時間帯に限っている船宿もあるので、思い立った深夜に電話しても繋がりません。まずは受付時間の確認からです。
予約時に伝えるのは、乗船日、人数、狙う魚(船の種類)、レンタルの要否、そして釣りの経験の有無です。「初めてです」と最初に伝えておくと、当日の説明が丁寧になり、釣り座も配慮してもらえることがあります。隠すメリットは何もありません。
ここで初心者が最も戸惑うのが出船可否の確認です。予約が取れていても、風や波が基準を超えれば中止になります。判断は当日朝、船長が下すのが一般的で、船宿の公式サイトやSNSで告知されます。「予約したから行けば乗れる」ではなく、家を出る前に必ず最新の告知を見る。この一手間を習慣にしてください。
受付から出船まで、港でやることは4つだけ
港に着いたらやることは、受付・支払い、仕掛けと餌の調達、荷物の積み込み、ライフジャケットの着用の4つです。集合時刻の30分前には着いておくと、この4つを慌てずに終えられます。
仕掛けは船宿の売店で買えるのが乗合船の利点です。東京湾の船は船宿ごとにオモリの号数が指定されていることが多く、事前に釣具店で揃えても号数が合わないことがあります。「この船で使うオモリをください」と言えば必要なものが出てくるので、初回は現地調達が確実です。
荷物は釣り座に置きますが、通路をふさぐ置き方は禁物です。船が動き出すと大きく揺れ、通路に置いたクーラーは滑って人にぶつかります。クーラーは座席の下か足元に寄せ、開けにくくならない向きで固定する。細かいようですが、これができていないと1日中ストレスになります。
釣り座はくじ引きが多い|ミヨシ・胴の間・トモの違い
乗合船の釣り座は先着順かくじ引きで決まります。船首側を「ミヨシ」、中央を「胴の間」、船尾側を「トモ」と呼び、それぞれ揺れ方も仕掛けの流れ方も違います。
ミヨシは波を正面から受けるため上下動が最も大きく、慣れない人には厳しい席です。トモは船が流れる向きによって仕掛けが船の下に入りやすく、オマツリ(他人の仕掛けとの絡み)が起きやすい。初めてなら胴の間、つまり船の中央部が最も無難です。船の設計上、中央部は揺れの影響を受けにくく、船酔いしにくい位置とされています。
くじ引きで端の席になった場合は、隣の人との距離感に注意してください。仕掛けを振り込むときに周囲を確認する、竿を振り上げる前に後ろを見る。この2つを守るだけでトラブルの大半は避けられます。
帰港後は片付けと魚の処理までがセット
帰港したら、船を降りる前に自分の周りのゴミと餌の残りを回収します。ビニール、空き缶、残餌などのゴミは海に捨てず必ず持ち帰るのが遊漁の基本ルールです。船宿にゴミ箱がある場合も、餌のパックの汁が垂れないようまとめてから出してください。
釣った魚は氷をたっぷり効かせたクーラーに入れて持ち帰ります。東京湾の乗合船は氷代が乗船料に含まれていることが多く、追加分をもらえる船宿もあります。魚が多いのに氷が足りないと、帰宅までに鮮度が落ちる。魚の量に対して氷が足りているかを、港を出る前に一度確認しておくと安心です。
レンタル品は洗ってから返すのがマナーです。海水がついたままの竿とリールは塩を噛んで傷むので、船宿の水道で軽く流す。次に借りる人のためでもありますが、そういう扱いをする客は船宿にも覚えてもらえます。
ライフジャケットは2022年2月から「着けないと違反」になった

船釣りの装備でひとつだけ選択の余地がないものがあります。ライフジャケットです。2022年2月1日から、小型船舶の船室外甲板上に乗船する全員に着用が義務づけられ、違反すれば罰則の対象になります。「借りればいいや」ではなく、基準を知ったうえで用意するものだと考えてください。
義務の対象は「国土交通省の安全基準を満たしたライフジャケット」で、判断の目印が桜マークです。ホームセンターの安価な浮力ベストには桜マークがないものがあり、それでは義務を満たしません。海上保安庁は、着用によって落水時の生存率が未着用時と比べて約2倍に高まるとしています。
桜マークが唯一の判断基準|見た目では区別できない
ライフジャケットが基準を満たしているかどうかは、製品に貼られた桜マーク(国土交通省型式承認・検定合格の表示)で判断します。デザインや厚みでは判別できません。見た目が立派でも桜マークがなければ法定の要件を満たさず、逆に薄いベルトタイプでも桜マーク付きなら要件を満たします。
初心者がつまずくのは、ネット通販で「フィッシングベスト」「フローティングベスト」として売られている製品を買ってしまうケースです。これらは収納力を売りにした釣り用ベストで、桜マークがないものが多い。商品ページの仕様欄に「国土交通省型式承認品」「桜マーク付き」の表記があるかを確認してから購入してください。表記がなければ、それは義務を満たす製品ではありません。
船宿で借りる場合も同じです。遊漁船が貸し出すものは基準を満たした製品ですが、サイズが合っているかは自分で確かめる必要があります。ベルトが緩いと落水時に脱げてしまうので、着用したら肩と胴のベルトを引いて、上に引っ張っても抜けないことを確認してください。
固定式と膨張式、船釣りではどちらを選ぶか
桜マーク付きの製品は大きく2種類に分かれます。発泡素材が入っていて常に浮力がある固定式と、落水を感知してガスボンベで膨らむ膨張式です。
固定式は構造が単純で、点検がほぼ不要、価格も抑えめです。ただし嵩張るので、腕を大きく振るキャスティングや、狭い船で人と並んで釣る場面では動きにくく感じます。膨張式は普段は薄く、腰巻きタイプなら釣りの動作をほとんど邪魔しません。その代わりガスボンベの残量点検が必要で、一度作動させたらボンベの交換費用がかかります。
東京湾の乗合船のように席が隣り合う釣りでは、動きやすさの面で膨張式を選ぶ人が多い印象です。ただし、膨張式は自動膨張と手動膨張で挙動が違い、点検を怠ると膨らまないことがあるのが弱点です。年に一度はボンベの緑インジケーターと膨張ユニットを確認する。それができないなら固定式のほうが確実です。
買うか借りるか|無料貸出の船宿もある
年に1回しか乗らないなら借りる、年に数回乗るなら買う。おおまかにはこの線引きで問題ありません。東京湾の船宿にはライフジャケットの貸出があり、救命胴衣を無料で貸し出している船宿もあります。合羽やクーラー、ビシまで無料で貸すところもあるので、初回は手ぶらに近い形で乗ることも可能です。
ただし、レンタル品は数に限りがあり、体格に合うサイズが残っているとは限りません。特に子ども用は数が少ないので、家族で乗るなら予約時に「子ども用ライフジャケットのサイズ」を必ず伝えてください。当日「サイズがありません」となれば、乗船そのものができなくなります。
自分で買う場合、船釣りに使うなら腰巻きよりも肩掛けタイプのほうが扱いやすいと感じる人が多いようです。腰巻きは前かがみになる作業が多い釣りでずれやすく、ベルトを締め直す手間が増える。売り場で実際に体に当てて、前かがみの姿勢をとってから決めるのが確実です。
手ぶらで行けるのか|持ち物は「安全・釣具・体調」の3系統で考える
持ち物リストを検索すると20項目以上並んでいて、初めての人は途方に暮れます。整理のコツは、持ち物を「安全に関わるもの」「釣りに使うもの」「体調を守るもの」の3系統に分けることです。この分け方なら、レンタルで代替できるものとできないものが自然に見えてきます。
| 安全に関わるもの | 桜マーク付きライフジャケット、滑りにくい靴、帽子、日焼け止め、カッパ(レインウェア) |
| 釣りに使うもの | 竿・リール、仕掛け、オモリ、テンビン、タックルボックス、プライヤー、フィッシュグリップ、クーラーボックス(氷) |
| 体調を守るもの | 弁当、飲み水(夏は3リットル以上)、酔い止め薬、タオル、ゴミ袋、携帯灰皿 |
| レンタルで済むもの | 竿、リール、テンビン、オモリ、ライフジャケット(多くの船宿が対応) |
レンタルで埋まる部分と、自分で用意する部分
東京湾の船宿の多くは、竿・リール・テンビン・オモリ・ライフジャケットを貸し出しています。料金は船宿によって差があり、手巻きリールや竿、バッテリーなどが各300円~1,000円、電動リールが3,000円という設定を公開している船宿があります。1日船の乗船料に電動リール代を足しても、初回投資としては竿1本を買うより安く済みます。
一方、レンタルではまず埋まらないのがクーラーボックス以外の「体調を守るもの」です。飲み物、弁当、酔い止め、タオル、ゴミ袋。これらは船宿の自販機や近隣のコンビニで買えることもありますが、早朝出船だと店が開いていないことがあります。前日のうちに買っておくのが確実です。
判断のコツは、「なくても釣りはできるが、なければ1日つらいもの」を優先することです。竿は借りられます。しかし、真夏に飲み物が足りない状態を船の上で解決する方法はありません。優先順位を間違えないでください。

クーラーボックスは35リットルが目安になる理由
船釣りのクーラーボックスは最低35リットル程度が目安とされます。堤防釣りで使う小型クーラーだと、東京湾のアジやタチウオがまとまって釣れたときに入りきりません。特にタチウオは細長く、折り曲げずに入れようとすると内寸の長さが効いてきます。
容量が必要な理由は魚の量だけではありません。魚を冷やすには氷と海水を入れて潮氷を作るのが基本で、その分の体積が要ります。魚でいっぱいにして氷が入らない状態では冷えません。「魚の体積+氷と水の体積」で考えると、35リットルという数字の意味が理解できます。
とはいえ、初回から大型クーラーを買う必要はありません。船宿でクーラーを無料貸出しているところもありますし、発泡スチロールの箱を持参する方法も一般的です。まずは借りるか発泡スチロールで済ませ、続けると決めてから自分の1台を選ぶ。この順番が無駄になりません。
失敗パターン①:夏の飲み物と、真夏でも要る防寒着
初心者が最も高い確率で後悔するのが、飲み物の量と防寒の見積もりです。夏の船上は日陰がなく、海面からの照り返しで陸上より体感温度が上がります。飲み水は夏なら3リットル以上が目安とされるのは、この照り返しと風による脱水を織り込んだ数字です。500mlのペットボトル2本では、午前中で尽きます。
逆に、真夏でも防寒着が要る場面があります。走行中の船は風速20m/s近い風を受けているのと同じ状態になり、濡れた体では夏でも震えます。カッパを1枚持っていれば風を遮れる。カッパは雨具ではなく防風着として持っていくと考えると忘れません。
対策は単純で、前日の買い出しリストに「飲み物」「カッパ」を固定項目として入れておくことです。天気予報が晴れでも外さない。この2つを削って快適だった日は、経験上ほとんどありません。
月ごとに主役が入れ替わる|東京湾で狙える魚のカレンダー
東京湾の船釣りが面白いのは、季節ごとに主役が入れ替わることです。同じ港から出る船でも、4月と10月では狙う魚も仕掛けもまったく違います。予約の前に「その時期に何が釣れるのか」を知っておくと、船選びで迷いません。
| 季節 | 主な対象魚 | 初心者への向き |
|---|---|---|
| 春(4月ごろ) | アジ、クロダイ、メバル、シーバス | 複数魚種が重なる時期。アジ船なら入りやすい |
| 夏(6月〜8月) | マダコ、タチウオ、シーバス、イサキ | 浅場のタチウオは数が出やすい。暑さ対策が前提 |
| 秋(9月〜11月) | タチウオ(大型)、カワハギ、アジ | 気候が最も楽。カワハギは難度やや高め |
| 冬(12月〜2月) | アジ、シロギス、カワハギ | 防寒さえ整えば海は空いていて釣りやすい |
通年の軸はマアジ|迷ったらこの船
東京湾を代表する魚で、季節を問わず狙えるのがマアジです。初心者向けの対象魚として真っ先に挙がるのもアジで、半日船・ショート船の設定が最も充実しているのもこの魚です。6,800円の半日LTアジ船のように、乗船料の面でも入りやすい設定があります。
アジが初心者向きとされるのは、狙う水深が比較的浅く、仕掛けもシンプルで、アタリが明確だからです。コマセをまいて群れを寄せる釣りなので、船長の指示に従っていれば魚のいる層に届きます。「今日は10mです」と言われたらその通りに落とす。それだけで結果が出やすい。
ありがちな失敗は、アタリがないときに自己判断でタナ(水深)を変えてしまうことです。コマセ釣りは船全体で同じ層に餌を集めるから効くのであって、1人だけ違う層を狙うと群れが散ります。指示ダナは自分のためではなく船全体のための約束だと考えてください。
6月1日解禁のマダコと、夏のタチウオ
東京湾の夏を象徴するのがマダコとタチウオです。マダコには禁漁期間が設定されており、6月1日に解禁を迎えます。解禁直後の船は人気が高く、予約が埋まるのも早い。狙うなら早めに動いてください。
タチウオは夏になると浅場に入り、数を狙いやすくなります。仕掛けはテンビン仕掛けとテンヤの2系統があり、船宿によって指定が異なるので予約時に確認が必要です。タチウオの歯は鋭く、素手で触れば簡単に切れます。フィッシュグリップとプライヤーは持ち物リストから外さないでください。
タコ釣りで初心者がつまずくのは、アタリの分かりにくさです。タコは餌木に乗っても引かず、「重くなった」という感覚だけが手元に来ます。竿先を注視するのではなく、オモリの重さの変化を感じ続ける釣り。感覚が違うので、初回はタチウオやアジのほうが手応えを得やすいでしょう。

秋はドラゴン級と肝パンカワハギ
秋の東京湾は、タチウオが大型化する季節です。100cmを超えるいわゆるドラゴン級が現実的なターゲットになり、夏の数釣りとは狙い方が変わります。同じタチウオ船でも、夏は手数、秋は1本の価値という組み立てになる。
もうひとつの主役がカワハギです。秋は肝が肥える季節で、釣り人が最も価値を感じる時期にあたります。ただしカワハギは餌取りが極めて上手く、アタリを取るのが難しい魚です。初めての船釣りでカワハギ船に乗ると、周囲が釣る中で自分だけ釣れないという状況になりやすい。
秋に初挑戦するなら、気候の良さを活かしてアジ船やタチウオ船から入り、カワハギは2回目以降に回すのが現実的です。「その季節の花形=初心者向け」ではないという点は、船宿の予約ページからは読み取れない部分なので覚えておいてください。
冬は空いていて、実は狙い目
冬の東京湾ではアジ、シロギス、カワハギが対象になります。寒さから敬遠されがちですが、船が空いていて釣り座を選びやすく、船長に質問する余裕もあるという点で、初心者にとっては悪くない季節です。
ネックは防寒です。海上の体感温度は陸上より明らかに低く、指先が動かなくなると仕掛けが結べません。インナー・中間着・防風の3層で組み立て、指先の出る手袋を用意する。これだけで冬の船は別物になります。
また、冬は海が荒れる日が増えるため、出船中止の確率も上がります。予定が1日しかない旅行者には向きませんが、近隣に住んでいて「風が弱い日に行く」という選び方ができる人には、むしろ効率のいい季節です。
船酔いは前日から始まっている|席選びと当日の動き方
船釣りを一度きりでやめてしまう最大の理由が船酔いです。ただ、船酔いは体質だけで決まるものではなく、席の位置、前日の睡眠、当日の姿勢でかなりの部分がコントロールできます。順番に潰していきましょう。
船の中央部が一番揺れない
船は前後方向のシーソー運動(ピッチング)が最も大きく、その支点に近いのが中央部です。船の設計上、中央部は揺れの影響を受けにくく、船酔いしにくい位置とされています。釣り座を選べるなら胴の間、これが酔いにくさの面では最適解です。
加えて、出船する時間帯も影響します。早朝便は波が穏やかなことが多く、風が上がる前に釣りが終わる半日船は揺れの面でも有利です。「短い時間で済む」だけでなく「揺れの少ない時間帯を選べる」のが午前船の隠れた利点になります。
海況そのものを選ぶことも忘れないでください。荒天時には波が高くなり船の揺れが激しくなるため、可能な限り穏やかな海況を選ぶことが船酔い対策として重要になります。初回は予報が良い日を狙って予定を組む。無理に荒れた日に行く理由はありません。
酔い止めは「酔ってから」では間に合わない
酔い止め薬は、成分が効き始めるまでに時間がかかります。船に乗ってから飲んでも、効き始めるころには揺れの影響を受けた後です。乗船前に服用しておくのが前提で、用法・用量は必ず添付文書に従ってください。
薬と同じくらい効くのが前日の準備です。十分な睡眠をとること、当日の朝食を軽く済ませること。空腹でも満腹でも酔いやすくなるので、消化のいいものを少量とるのが定石とされています。前夜の飲酒は睡眠の質を落とすため、初回は控えたほうが無難です。
それでも酔ってしまった場合は、我慢せず船長に伝えてください。横になれる場所を案内してもらえることがありますし、無理に釣り続けて甲板で倒れるほうが危険です。体調不良を伝えることは迷惑ではなく、船上の安全管理の一部だと考えてください。
船酔いの引き金として多いのが、揺れる船上で下を向いたまま細かい作業を続けることです。仕掛けの結び直し、スマホの操作、クーラーの中の整理。これらは目からの情報と三半規管の感覚がずれ、酔いを一気に加速させます。対策は仕掛けを家で結んで持っていくこと。予備の仕掛けを2〜3組作っておけば、船上では結び替えるだけで済み、下を向く時間を大幅に減らせます。作業が必要なときは、いったん水平線を見てから短時間で終わらせてください。
罰金もあるルール|コマセの制限と、入ってはいけない海域
遊漁は自由に見えて、実際にはかなり細かいルールの上に成り立っています。東京湾には他の海域にはない独自の制限もあり、知らずに破ると罰則の対象になることもあります。船に乗る側が最低限知っておくべきものを整理します。
東京湾のコマセは1人1日3kgまで
東京湾でコマセ(撒き餌)を使う釣りには、明確な数量制限があります。東京都のルールでは、コマセカゴは1本の道糸につき1個、直径5cm以下・長さ8cm以下、そして使用量は1人1日3kg以下と定められています。アジ船やイサキ船で使う量としては十分ですが、上限があること自体を知らない人が少なくありません。
この制限がある理由は、資源保護と海の環境維持です。撒き餌が過剰になれば海底に堆積し、水質にも影響します。行政の案内でも、法定の範囲内であっても必要最小限の量にとどめるべきとされ、地域ごとにルールの違いがあるため釣行前に確認するよう促されています。
乗合船に乗る限り、コマセは船宿が用意した分を使うのが普通なので、自分で計量する場面は多くありません。ただし、「余ったから全部まいてしまおう」は明確にルール違反の方向です。残ったコマセは海に捨てず、船宿の指示に従って処理してください。
船でも入れない海域がある|羽田空港周辺と港湾施設
東京湾には、船であっても釣りをしてはいけない海域があります。羽田空港周辺はセキュリティ上の理由で釣り禁止とされ、港湾施設の内部も大多数が釣り禁止で、許可された区域のみが例外です。
加えて、海上保安庁は東京湾の航行上の危険箇所を公開しています。水中に沈んだ構造物によって船が座礁・転覆するリスクがある場所、パイプや根固めブロックなどの障害物が船体を損傷させる場所、特定の桟橋付近の強い潮流、係留船舶が密集して衝突リスクが高いエリアなどです。
乗合船に乗る立場ではこれらの判断は船長がしますが、自分でボートを出す場合は事前確認が必須です。東京湾海上交通センターはVHF16CH・13CHで安全情報を提供しており、湾に入る前に聴取することが推奨されています。出航前に気象条件と潮汐情報を確認するのも基本動作です。
ゴミと騒音|早朝の船宿は住宅地の隣にある
遊漁のルールで最も繰り返し注意されるのがゴミです。ビニール、缶、残餌は必ず持ち帰る。とりわけ釣り糸の切れ端と仕掛けのパッケージは風で飛びやすく、海に落ちれば鳥や魚に絡みます。切った糸は必ずポケットかゴミ袋に入れる習慣をつけてください。
もうひとつが騒音です。東京湾の船宿の多くは運河沿いや漁港にあり、すぐ隣が住宅地というケースが珍しくありません。早朝・夜間は特に周辺住民への配慮が必要で、車のドアを強く閉めない、大声で話さない、アイドリングを長引かせないといった基本が求められます。
操業中の漁船への配慮も遊漁の基本です。漁の邪魔をしない、定置網や養殖場に近づかない。乗合船なら船長が守ってくれますが、そういう海の上で釣らせてもらっているという前提は、乗る側も共有しておくべきものです。地域ごとに海面利用協議会や漁協が定めるローカルルールもあるので、迷ったら船宿に聞くのが確実です。
出船中止の判断は、船長に任せるのが正解
予約した日に風が強い。行けるのか行けないのか気になって何度も電話したくなりますが、出船可否の判断は船長の専権事項です。船長が中止と言ったら、それが最も安全な判断だと受け取ってください。
初心者がやりがちなのは、「せっかく予定を空けたのに」という気持ちから、微妙な海況でも出してもらえないかと交渉してしまうことです。しかし、東京湾は湾内とはいえ風が上がれば波が立ち、外洋に近い湾口部はさらに条件が厳しくなります。出船できても釣りにならない日はあります。
中止になったときの対応は船宿ごとに違うので、キャンセルポリシーと中止時の扱いを予約時に確認しておくと、当日ストレスがありません。振替になるのか、返金なのか。これを聞いておくだけで、荒天予報の朝の気分がだいぶ変わります。
まとめ|東京湾の釣り船、最初の1回はここから始める
東京湾の船釣りは、道具を全部揃えてから始める必要がありません。竿もリールもライフジャケットもレンタルがあり、仕掛けと餌は港で買えます。最初の一歩として現実的なのは、風の弱い日を選んで半日のアジ船を予約し、飲み物とカッパと酔い止めだけ持って港に行くことです。そこで海の上の時間感覚と船の揺れを体で覚えてしまえば、次に何を買うべきかは自分で判断できるようになります。あとは、狙いたい魚が旬を迎える季節に合わせて船を選ぶだけです。
なお、料金・出船時刻・レンタルの内容は変更されることがあり、コマセの規制や釣り禁止区域も見直される場合があります。予約前に各船宿の公式サイトと、東京都産業労働局の遊漁のルール、国土交通省のライフジャケット着用義務、東京湾遊漁船業協同組合の入門ガイドで最新の情報をご確認ください。

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